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同級生達は学兄さんに嫌われたくない…それだけで慌てたように次々と言い訳が出てくる。
学兄さんはクラスで一番人気者のカースト上位の人間だ。
小学生でも上下関係がはっきりしていて、皆俺を虐めていても学兄さんが止めに入ると、このいじめっ子と同じように学兄さんに言い訳をして学兄さんに謝る。
虐められたのは俺の方なのにチラリとも気にした様子はなく、皆学兄さんに夢中だ。
そんな同級生達は言い訳と謝る事に必死過ぎて気付いていないのだろう。
…兄である学兄さんが俺の方に振り返ってきて嫌な笑みを向けてる事に…
俺はその笑みの意味をまだ分かっていなかった。
尊敬する兄が助けてくれた、そんな能天気な事を考えていた。
「俺の弟をいじめちゃダメだぞ!」
「……学くん」
「学くんは優しいなぁ~、こんな出来損ないの弟も守るなんて」
学兄さんは俺の前で庇うように背を向けて、腰に手を当て同級生達を見ていた。
俺の前にいるから学兄さんがどんな顔をしているのか分からない。
そんな学兄さんを同級生達は哀れみ憧れの眼差しで見つめる。
俺という出来損ないの醜いアヒルの子を持つ兄として可哀想だという哀れみ、そんな俺を守るヒーローのようにかっこいい学兄さんに憧れる子は少なくなかった。
学兄さんへの評価は歳を重ねるごとに一つ一つと確実に増えていった。
近所の人も「うちの子も学くんを見習わなくちゃ」といつも学校に登校する度に学兄さんに言っている。
今思えばそれは全て計算されていた事だったのかもしれない。
だけどその時の俺は学兄さんを信じていて何一つとして気付いていなかった。
同級生達が学兄さんの登場で俺への興味がなくなり学兄さんに元気よく手を振って去っていき、俺は涙でぐしょぐしょの顔で学兄さんに微笑んだ。
「…学兄さん、ありがとう」
「……はぁ?何それ」
さっきまで同級生達と話していた可愛い笑みではなく、心の底から俺の事を嫌悪して見下し…馬鹿にするような乾いた笑いで俺の方を見ていた。
今までそんな顔をされた事がない…いや、もしかしたら気付いていなかっただけだったのかもしれない。
俺はあまりの豹変っぷりに驚いて固まっていた。
いつも学兄さんが言うのは「瑞樹は弱いんだからすぐに俺を呼べよな!」と俺のために怒っていたのに、それは全て嘘だったのか?
ずっと張り付いていた仮面がボロボロと音を立てて割れたような気がした。
この時ずっと頼れる存在だと思っていた学兄さんの本性を初めて知った日になった。
「お前はうちの子じゃないんだから迷惑掛けるなよな!!」
「………え」
学兄さんは俺を見て眉を寄せてビシッと指を差していた。
なにが起きたのか分からず呆然と指の先を見つめた。
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