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「……確かに…言われてみたらそうかも……」
以前、肩に付けていたこのブローチをザイードに思いきり引きちぎられた事を思い出す。
愛美はそのブローチをベールの布で見えなくなるように覆い隠した。
愛美は指先を口に当てる。
「内緒ね。このまま明日仕立てに出しちゃうから」
そう言って片目を閉じたマナミとセナは互いを見合うと同時にぷっと吹き出していた。
クスクスとじゃれて笑いながら二人は居室の扉を開ける。
「──…!っ…」
その途端、ぎょっと目を見開いて愛美とセナは硬直していた。
「楽しそうだな。二人で何処に行ってた?」
「……っ…」
公務を終え、居室に戻ってきていたザイードに何気に聞かれ、愛美は咄嗟に手にしていたベールを背中に隠した。
ザイードは愛美の動きに眉を寄せる。
「何を隠した?」
「いや…何もっ…」
焦った愛美を余計に怪しむ眼差しで見つめ、ザイードは詰め寄った。
「見せてみろ」
「え…っ…や、やだっ」
「──…!」
拒否した愛美を前にしてザイードの表情があからさまにムッとなる。
必死で背中に庇うそんな愛美の手から、するりとベールが奪われていた。愛美は慌てて振り返る。
「ふふ、特に怪しい物では御座いませんよ。ザイード様……」
「ちょっ…セナっ…」
笑みを返しながら、愛美から取ったそのベールをザイードの前に差し出す。そんなセナの行動に愛美は思いきり動揺を見せる。
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