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「これは…」
「あら、ダメですよまだ」
手を伸ばしたザイードからセナはすっと避けていた。
「マナミ様が婚儀で付けるベールを仮止めしたところです。ザイード様がちゃんと御目にするのは本番まで楽しみに取っておいて頂かないと! そう思ってザイード様には内緒にって丁度話していた所でしたのよ。ね、マナミ様!」
当然のように語り、セナはマナミにウインクをして見せる。
理由を知らされたザイードは小さく驚く。そして微かに照れを浮かべていた。
「なんだ…そう言うことか…」
「そ、そうなの!……」
さりげなく頭を掻き、ホッとした笑みを見せるザイードにマナミは焦って頷いていた。
上手く誤魔化したセナは自然を装いながら箱にそのベールを仕舞う。
「じゃあこれは明日、御仕立てに出すように私が部屋でお預かり致しますわ」
「ああ、頼む。本番まで楽しみにしておく」
そそくさとベールを仕舞った箱を手にしたそのセナに、ザイードは何の疑いも持たず、そう返す。
愛美はザイードの背後から、よくやったとばかりに小さなガッツポーズをセナに送っていた。
セナは真顔で深々と頭を下げる。
「では、お休みなさいませ」
「ええ。ありがとうセナ!じゃあそれをお願いね!」
「出来上がりを楽しみにしていると伝えてくれ」
「はい」
主人二人に笑みで見送られると居室の扉が閉まった瞬間、セナは大きく溜め息を吐いていた。
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