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「苦しくはないか……」
唇を放し、覗き込んだザイードに愛美は笑って返す。
「少しね。座るよりも立ってる方が今は楽になっちゃった」
御腹に大きなボールを抱えながら生活をしているようなものだ。
動きにくいと言ったらこの上無い。
ザイードはそんな愛美に笑みを返し、御腹を優しく撫でる。
「でもセナが色々やってくれるから助かってるわ……あたしは貴方の妻になって色んなことに恵まれた」
そんな言葉を聞かせた愛美をザイードは見つめる。
家族とも母国とも離れ、異教の地に迎えた。
そんな愛美に不便は沢山かけているはずだ──。
そしてこれからも、もっと沢山の不便を強いることになるだろう。
だが、こんな言葉を言ってくれる愛美が愛しくて堪らない。
ザイードは愛美のこめかみに優しく唇を押し当てる。
「早く横になるか…」
そう言ったザイードの顔を愛美は両手で包んだ。
「疲れた顔をしてる……」
「ああ…だがお前をこうしていると不思議と疲れも癒される……」
心配した愛美のおでこにザイードは額を付けて目を閉じた。
腰に回されたザイードの腕が愛美を愛しげに抱き締める。
優しいその感触に包まれながら愛美は幸せな笑みが溢れていた。
「早く休まなきゃね……」
「……ああ。今夜はゆっくりお前をこうして眠りたい……」
そう口にして互いに見つめ合うとまた自然と唇が深く重なる。
愛しい者と愛を育む時間は何にも代え難い。
こうして得られる幸せもあるのだと、それを知ることができただけでも恵まれていると思うことにしよう。
「今夜はベールを飾ったお前の夢を見れそうだ……」
微笑みながら愛美を見つめると、ザイードは柔らかな愛美のその髪を何度も優しく指先でとかしていた。
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