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夜の静寂の中──
月明かりに照らされた夜空をずっと見上げている背中がそこにあった。
「国王様……どうぞ御掛けになってください」
「うむ……」
窓際の手すりに掴まり車椅子から立って月を眺めていたイブラヒムに、アレフは声を掛ける。
イブラヒムは短く答えるとゆっくり腰を降ろした。
アレフはその動きに手を添える。そして肩掛けをそっと掛けていた。
「あれは行ったか……」
「はい」
返事をしたアレフをイブラヒムは振り返る。
「どうした?らしくもない。お前がそのような顔をするな……」
「ですが国王様……」
「よい……何も言うな……」
イブラヒムは悟ったようにアレフを止めた。
車椅子に座った位置から、今度は先程よりも高くなった月を見上げ首を仰ぐ。
そして静かに溜め息を吐くと重く閉じていた口をゆっくりと開いた……。
「あれが初めて城を離れたあの頃……余も色々と裏から手を尽くした……だが、それはあれがまだ右も左もわからぬ子供だったからだ……」
その言葉にアレフは黙ったまま頷く。イブラヒムは仰いだ月を眩しそうに見つめ、目を細めた。
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