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「あれが自ら選んだ道だ……もう祈るしかあるまい…」
静かに語ったイブラヒムの背中をアレフは見つめる。
その姿は月光を受け、まるで光りに包まれて消えていきそうな儚ささえ感じてしまう。
国王という立場を重んじる故、我が子とは距離を置いて接することしか出来ない主の為に、皆が陰で力を尽くした。
軍の任務に就いてもなるべく危険がないようにと──
だが、皆が守ろうとすればするほど、アサド自ら危ない橋を渡ろうとする。
いや、むしろ危ない橋しか用意されていないように常に事が進んでしまう。
それはまるで、まさにアサド自身に課せられた運命(カダル)であるが如く──
アレフはイブラヒムの視線の先にあった月をともに見上げた。
「アサド様は人一倍運が強くあらせられる……今回だってきっと切り抜けてくれますでしょう……」
後ろからそう声を掛けるアレフの言葉にイブラヒムは目を閉じる。
そしておもむろに口を開いた。
「……あれが産まれた時に占い師が選んだ印章が“獅子”だった……それも燃え盛る炎を纏った…その炎は降り掛かる火の粉を物ともせず──または炎さえもを自らの力に変え果敢に苦難に立ち向かう精神を意味するという……」
そう語る口元には微かに皮肉気な笑みが浮かぶ。
「占い師に尋ねたらそう答えた……」
“いったいなんの因果だというのか……”
イブラヒムは溜め息混じりにそう呟いた。
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