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第一話
小さな頃はあまり覚えていない。好きなことなどあまりなく、ただ今日1日をなんとか生き抜くことだけに一生懸命になっていた。
暗い日々だったかというと、そんなこともなく。とても楽しかった思い出もある。あの頃食べた綿菓子が美味しかった、とか、夜に見上げた星空がきれいだったとか。そんな楽しい優しいものもあった。
◇
ルカが所属している書籍部は会社全体の資料をまとめて保管する部署である。大きな会社である小宮シティの最下層、太陽の光も届かぬ地下にあり、他の社員は存在すら知らない。艶やかな会社の入り口から裏手へと回り、頑丈そうなエレベーターで地下へと下がっていくと見えてくる。暗いひんやりとした通路を抜ければ、少し古びた扉が出迎えた。
「全くもってこのデータ、どうにかしてくれよ。お前たちはデータさえ、打ち込んでくれればいいんだからさぁ」
いつも資料を持ってくるパリッとしたスーツの若者がうんざりしたような顔をしてルカを見る。少し笑ってルカは社員から大量の資料を受け取った。
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