怪人ニシキの失恋定義

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怪人ニシキの失恋定義

「どうしたニノマエちゃん、酷く浮かない顔をして!もしかして失恋でもしたのか?」  小ぎれいに片付いた生徒会室、その外にまで響く高い声があまりにも耳障りで、ニノマエは丸眼鏡の下の細い眉を露骨にひそめる。 「してません」  余計なことは言わないでおこう。ぎりぎりの自制が短く出力されるも、肝心の相手はお構いなし。 「まあニノマエちゃん失恋もなにも恋愛とか全然興味なさそうだよな。俺の失言だったすまん!」  カッとなって机の上にあったサインペンを顔めがけて投げつけたがこれは不可抗力だろう。 「あーりーまーすー!失恋もしたことだってありますしー!今は彼氏もいますー!バカなこと言ってないで黙って仕事出来ないんですか!?」 「あいたっ!?ぬぬぬ、そりゃすまん、てっきり!」  ニシキより40cm近く小さいニノマエは不愛想で目付きもキツい。性格も見たままの印象を反映したとしか思えないほどキツくて生真面目、絵に描いたように「人は見た目による」典型だった。 「てっきりなんです」 「彼氏居ない歴イコール年齢かと」  盛大にため息を吐いて汚物を見るような目でニシキを睨み付ける。元々格差が大きいのに相手だけが立っているので視線の向きはほぼ真上。いくら自由な校風とはいえ、生徒会副会長の髪が真っ赤に染められているのはニノマエの理解をだいぶ超えている。 「来週にでもハゲたらいいのに」  ぼそっと恐ろしいことを言う。 「生々しく辛辣な呪詛をありがとう。こう見えて頭皮のケアにはけっこう気を使ってるんだな!」 「副会長の頭皮にはまったく関心が無いので手を動かしてください。ていうか生徒会長にいいように使われ過ぎじゃないですか?」  生徒会長のニカイドウはなんだかんだと理由をつけて帰宅済み。ニノマエは書記だがニシキに頼まれて仕方なく居残りで手伝っている。 「そう思うこともたまーにあるが、まあ俺は気にしてないので大丈夫だ」 「私は大丈夫じゃないですけど。じゃあひとりで出来ますか」 「すまない、そしてありがとう」  ダンス経験でもあるのかと思うほどキレッキレの動作で着席して書類に向かい始めたニシキ。  ニノマエも盛大にため息を吐いてから再び手を動かす。  悪いひとではないのだけれど、ニノマエにとっては悪いひとではないだけだ。  生徒会副会長。通称、怪人ニシキ。  真っ赤な髪に筋骨隆々の長身と大きな声に高いテンション。運動部かと思わせて入学から二年間ずっと演劇部の脚本担当だったらしい。
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