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生徒会役員選挙では「副会長に最も相応しいのは俺しかいない!黙って俺についてこい!!」と自信満々に無根拠な演説をぶち上げて当選したニシキだったが、どう「副会長に相応しい」のか今もって誰にもわかっていない。
誰が怪人と言い出したのかはしらないが、少なくとも変人の類いではある。
手を動かせと言ったものの黙って黙々としなければならないほどの内容でもないので心持ち退屈ではあった。
作業の片手間にニノマエはふと思い付いたことを口に出す。
「そういう副会長はどうなんですか?」
「どう、とは?やっぱり頭皮のケアに興味があるのか。女子だってそれだけきっちり前髪上げてると生え際の不安とかあるよな!」
「ないですしなんだったら副会長の前髪を今から引っこ抜きましょうか」
「ほんとやめてマジやめて俺はけっこう気にしてるんで。じゃあなんの話よ」
「失恋経験とかまったくなさそうですよね」
一瞬間が空いた。それでも不可解に思うより早く、ニシキが大仰に驚いてみせる。
「ええ!?マジでそう見える?」
「彼女は常時3人くらい居そうですね」
「ニノマエちゃん俺の印象悪過ぎない?」
「正直悪いですけど過ぎてはないと思います。で、違うんですか?」
手元から視線を上げて目を合わせる。
合わせたつもりだった。
しかしニシキは難しい顔で視線を落としていたので入れ違いになっている。
「…」
沈黙が長い。
厳密にはニシキの呻き声だけが生徒会室に地の底からの呪いのように響いている。
じっと待っていると長そうなので自分は手を動かしながら待つ。ニシキの手を止めてしまったがこれは自業自得なので大目に見ることにした。
「ニノマエちゃんはさー」
地獄から響くような呻きが途絶えた。
「失恋っていつだと思う?」
「いつ、ですか」
なんとも哲学的な問いだな、と思いつつオウム返しに聞く。
「そう、ひとはいつ失恋するのだろうか」
「それは、振られたら失恋じゃないんですか」
「告白して断られた、あるいは付き合っていたが別れた、っていうこと?」
「そうですね。他には相手が亡くなったとか、アニメキャラとかに恋したときも…それはいつかどこかで無理って気付いた時が失恋なのかな」
いくつか例を挙げるが、ニシキの表情は呻いていた時と変わらず難しいまま。
「俺は違うと思う」
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