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少し間があっての返答。珍しく真面目な顔をしているニシキを見て少し先が気になった。
「どのようにですか。続きをどうぞ」
コメントを挟まずに促す。
「コクってフラれても、恋人に捨てられても、俺はまだなにも失ってないから」
いや少なくとも後者は恋人を失ってますけど、という突っ込みをぐっと自重した。
「断られた、捨てられた、相手が死んだ、行方不明になった、元から無理な相手だった、他etcetc…」
声と体に溜めが入っていくのがわかる。
「そこに俺が居ないじゃねぇか!」
椅子を蹴って立ち上がって叫ぶ。
びくっと身を竦めてから睨み上げるニノマエはまったく眼中に入っていない。
天井に向けてニシキが吠える。
「振られようが捨てられようが相手が死のうが行方不明になろうが二次元だろうが俺はなにひとつ失っちゃいねぇ!!」
ひっくり返った椅子に足をかけて両手を広げる。かかってこいと言わんばかりに。
「一回叶わなかったくらいなんだ!チャンスはそこで終わりじゃねぇ!失恋とはすなわち、己の心が折れたとき!初めてその傷から生まれるものが失恋だ!!」
その言葉にニノマエは自分の失恋した過去を思い返す。
あのとき相手には付き合ってこそいなかったけど既に意中のひとがいて、知っていたけどだからといって諦めはしなかった。
むしろぶち壊して奪い取ってやろうと憎悪のように本気を燃やして、幾度となく挑みかかった。
諦めたのは、失恋したのは、燃やしていたその気持ちが相手の言葉で鎮火されたからだった。
彼に対する憎悪のような愛情が冷めて、そのとき初めて私は失恋した。負け惜しみかも知れないけど、それまでは断じて失恋なんかしていなかった。
相手はさぞいい迷惑だったに違いないけど、私は失恋していなかった。
だからニシキの言葉に納得するしかなかった。
「我思わず!故に我失恋せず!!」
「とりあえずわかりましたからそろそろ座りませんか」
「テンションさげないで欲しいなー」
苦笑いで振り返るニシキを見てふと、今までの生徒会活動がフラッシュバックする。
「あ、生徒会副会長に最も相応しいのは俺しかいない、ってもしかしてそういう」
口に出してしまった。ニシキが下手くそなパントマイムのようにキリキリと奇妙な動きを見せる。
「なんの、こと、かな」
「もちろん副会長がまだ失恋していない話ですが」
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