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「ただいまー!虫眼鏡どこ?」
玄関からすぐにリビングに向かうと、お母さんに声をかける。
「おかえりなさい。って、いきなりなんなの?」
「とにかく虫眼鏡」
「ないわよ。一体なんなの?」
ソファーで寛いでいたお母さんは、身体を起こすと怪訝そうな顔をする。
「いや、ちょっとね」
そう誤魔化すと、私は階段を上り二階の自室へ籠る。
そしていつも通り、目を閉じてキミに「ただいま」と、挨拶をした。通じているのかはわからないけれど、キミはいつも笑ってくれるからそれだけで幸せな気持ちになる。
虫眼鏡の件は、クラスメイトの高木くんにでも貸りよう。蟻研究会に所属しているようで、いつも地面を虫眼鏡でジッと観察している。きっと明日も、虫眼鏡を持参しているだろう。
…あ。
瞬きをした瞬間、またキミが笑っているのが見えた。
私は、そっと目を閉じる。
するとキミが、コチラに向かって手を伸ばす。
ねえ、名前は何て言うの?
年齢はいくつなの?
その声は、やっぱりキミには届かないみたいでキミはただ私の瞼の裏で、笑うだけだった。
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