花びら

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 記憶というのは都合が良い。私の場合、いいことばかりを鮮明に覚えている、あるいは覚えている気になっている。実のところが曖昧なのだ。曖昧さゆえに、幸せな記憶ばかりを残しておきたいという無意識の力が働いているに違いないのだ。そのせいか、私の記憶の中の風景や、そこで暮らす人たちの姿はあたたかい。本来、思い出の場所というのは、あたたかいものだ。戻りたいけど戻れない、帰りたいけど帰れない、そんな場所だから、いつもあたたかいままなのだ。人は、夢の中でだけ、しばし、そこに戻ることが出来る。夢の中で思い出の場所に立ち、思い出の顔に囲まれ、無邪気にたわむれ、笑い、昔見たままの景色にもう一度出会い、ふと感傷に浸ったときに眠りから醒め、あ々夢だったのかとひとりごち、誰にも悟られぬよう、泣くのだ。人間そんなものだ。
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