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ここはあらゆる願いを叶えるというタカミムスヒノカミが祀られている。当のタカミムスヒノカミの神は本殿に背を向けて背中を丸め、膝を抱えて座っている。他力本願棚ボタ期待な人間たちの欲望を日々聞くのに疲れ切っていた。
『超偏差値ヤバいけど、〇〇大に一発合格します! 生年月日は……』
『孝彦が奥さんと別れて私晴子と結婚します。住所は……』
『体重制限がヤバいんですけど、モデルのオーディションに受かりますように……。じゃなくて受かります! 名前は……』
『高額宝くじが当たって一生遊んで暮らします! 住んでるところは……』
……なんだかなぁ。何もしないで願いだけ叶えて貰おうってか。わしらはそもそも感謝を捧げるもの。そういう場所じゃて。つつがなく暮らせています、ありがとう。健康で一年過ごせました。平穏無事に一年が終わりました。ありがとうございます。こんな風に……
タカミムスヒノカミは大きくため息をついた。
……そもそも、棚ボタ的ラッキーを起こして人間を甘やかせるのは魔物、悪魔、悪鬼、妖怪の分野やで。やたら気安くお願いすると、願いを叶える代わりに魂や、その人間が最も大切にしているもの、または運気を代償にもっていかれるんじゃ。愚かよのぅ。そうして気軽に願うと、ほら、魔物たちの餌食になるで……
その時、清らかで澄んだ声が聞こえてきた。
『今年も有難うです。近くにきたからよりました。まいにちぶじで過ごせてます』
五歳くらいの女の子の声が、雑音雑念、煩悩にまみれて響いてくる。タカミムスヒノカミは優しい笑みを浮かべ、少女の幸せを祈った。少女には幸運という運を授けた。
……私利私欲無し。無欲かつ無心で感謝を捧げる。それが正しい参拝方法やて……
神は崇高なる笑みを浮かべた。
~完~
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