小さな神様

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刑務所に入所すると、所内に於ける規則を囚人は叩き込まれる。 そしてその規則には、一般生活とは異なる、一般生活では考えられない決まり事が多い。 例えば所内での移動。 居室から出て所内を移動するときは必ず刑務官が真横に同行する。 そして移動は(歩行)ではなく、全て(行進)で行われる。 前方に60度、後方に30度の角度で腕を振り、太股をしっかりと上げ、1,2,1,2、と刑務官の掛け声と共に前進する。 喩え数メートルの距離であっても、移動する時は全てこの行進が適用され、普通に歩く事、列を乱す事も厳禁。まして声を出したり、会話するなどはもってのほかである。 優は入所の初日から懲罰房に来た。 行進の練習の際、勝手に列を離れ、大声を出したからである。 練習は官舎と官舎に挟まれた広場で行われていた。 「1,2,1,2!お前ら!もっと腕を上げろ!太股もしっかり上げろ!」 「あーーー!だめ!だめ!」 練習の最中、優がいきなり列から離れ官舎の軒下へと走り出し、それを見咎めた刑務官が慌てて優の後を追いかけた。 「貴様!脱走するつもりか!」 「先生!先生!助けち!先生!」 しかし優は追い着いて来た刑務官に大声でそう言い、手に持った思いもよらぬものを差し出した。 それは、軒下の巣から落ちた、燕の雛だった。 ここから優の懲罰房生活が始まる。
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