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「神はサイコロを振らない」
その宣った大物理学者がいた。そう、かの有名なアインシュタイン様だ。僕ももちろん尊敬している。だって物理学を学ぶ大学生だから。この瞬間も、世界は物理学で記述できると信じている。そう、数式で表せないことなんて、断じて存在しない!
「不可解状況に対応する、手っ取り早い方法は寝るだな」
そんな僕は現在、あり得ない状況に直面し、夢の世界への逃避行を決め込んでいた。が、現実はそう甘くない。
「おい。考えてくれよ。俺はどうやったら元の世界に戻れるんだ?」
「そもそも相手はドイツ人のはずだ。人生の後半はアメリカ人だった。というわけで、日本語である時点でおかしい」
僕は自分の肩を突っついてくる男を無視し、布団に潜り込む。そもそも、一人暮らしの部屋に見知らぬ男がいる時点で怪しいのだが、それを上回る色々があるので、それは無視だ。うん、というか、総てを無視して眠りたい。
「おおい。解決できるのは君しかいないんだ。俺もな、こうなったらちょっとは馬鹿にしていた神を見直そうと思う」
そいつは諦めず、僕の肩をつんつんしながらそう言い放つ。馬鹿にしていたってのがまあ、あの人らしいんだけどさ・・・
「あの、もし本人だと仮定して話しますが、僕にとって神は物理学であり貴方なんですよ。お願いですからイメージをぶち壊すのは止めてもらえますか?」
あまりにしつこく同じ場所をつんつんされ、僕も無視するのが限界となった。仕方なく、そいつを見ることなく布団の中から言ってみた。
「ええっ。この時代においてまだ俺の理論が否定されていないのか。あのムカつく量子力学が成功したと知り、とっくの昔にお払い箱になったと思ったんだが」
実体を持ったそいつは、頭を抱えて大仰に驚いてくれる。ああ、そういう発想になるんですねと、僕は徐々にこの状況を楽しめるようになる。 というか、受け入れるより他ない状況だ。
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