プロローグ 工房都市前の決戦

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 しかし突発的な事案についての対応の遅れや足並みの乱れを予想するのは楽観的であると批判されても、無謀であったとまでは言えないだろう。帝国との交渉に行き詰まりを感じていたハンザワ=プリマス同盟、帝国での呼称は単に西域同盟、はこれを好機と捉えて帝国への要求項目の一つを力づくで獲得しよう考えて実行に移したのだ。  帝都を落として交渉そのものを無意味にしようとまで企んだのではない。国境に比較的近く、"最古"のという枕詞の冠される工房都市アバロンを一時的にでも占拠し、そこでのみ造られる帝国の"黒鎧"の秘密を明かに、もしくは工房を破壊しようしたのだ。  "黒鎧"は単純化すれば丈夫で軽い鎧にすぎない。しかし、"飛切り"丈夫で軽いのだ。これを装備した帝国重装歩兵は他国の軽装歩兵以上の軽快な動きを戦場で見せる。その精強さとレギオン戦術によって帝国重装歩兵は戦場では無敗だ。  "炭片のように黒々とした"と形容されることの多いこの鎧は、実際軍場の後を穿り返して得られたその破片をコークスで強熱すると極めて細かなレース編みのような白い構造を残して燃えてしまう。金属ではないことは確かで、ダイヤモンドも同様に燃えることから実は炭からできているのではとも囁かれているが実態は不明である。  "黒鎧"は帝国の軍事的基盤の主要な源泉の一つだと言える。逆説的に言えば一つでしかないのだが。     
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