たとえ、苦しくても。

3/10
前へ
/10ページ
次へ
中に入ると、大きな薪の暖炉があった。そのあたたかさに、少女は涙が出そうになる。頬や耳、手の先がじんじんとしながら、ゆっくりと熱をとりもどしていく。 「まずはしっかりあったまって、落ち着いたらソファにおかけなさい」老人の言葉に甘え、少女はそのとおりにした。ゆったりめのソファには、大きな犬がおとなしく座っている。少女は犬の種類を知らないが、そのつぶらな瞳と毛並みの良さから、とても高級でかしこい犬だというのがわかった。となりに腰をかけると、犬は嬉しそうにしっぽをぱたりと動かした。 「お腹もすいているだろう」 老人はそう言いながら、湯気の出た野菜のスープと、ちょうどよくスライスしたバケットをテーブルの上に置いた。「どうぞめしあがれ」 少女は戸惑った。すぐにでもがっつきたい欲求はもちろんあったが、申し訳なさが先にでた。「あの、でも、わたし、お金がないんです」か細い声でそう言った。その言葉に、老人は笑った。「お代はいらないよ。そのかわりと言ってはなんだけれど、食べたら話を聞かせてもらえないかい。なに、難しいことはない。今までどんなきもちで、どんなふうに生きてきたのかを聞かせてくれたらいいんだ」 少女はうなずき、食事についた。あつあつのスープを飲むと、身体の内側からもホカホカとあたたまった。泣きながらパンにもかぶりついた。いままで食べたなによりも、おいしいと感じた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加