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少女は思い出すように言う。
「そうですね。やはり、わたしは親に捨てられたこと、新しい家でも暴力をふるわれ続けたことに、とてもつらい想いをしました。ときがたっても、急にかなしくなって涙がでたり、自分には生きる価値などないのでは、と思うこともありました」
「そんな境遇なら、誰だってそうなる。で、神様はなんだって」
「『愛している』と」
「『愛している』?」
老人は揺らしていた椅子をぴたりと止め、聞く姿勢をととのえなおした。少女はむずかしそうに、けれどもしっかりとした口調で説明をはじめる。
「……わたしは苦しみにあえいでいるとき、自分はいったいなにを求めているのかを考えました。そのとき、みつけた答えが『愛』でした。
結局、わたしは愛されたかったのです。
愛されたいという想いがあるのに、誰からも愛されない。路頭に迷っているときも、道ゆく人々は侮蔑の視線をわたしに送ります。わたしはそれがつらかった。一度でいい、優しいまなざしがほしかった。愛情にみちた抱擁を、されてみたかった。
わたしは神に問います。『神様、誰にも愛されぬわたしに生きる価値などありましょうか』と」
「すると?」
「神様はこう答えます。
『あなたが、もし誰からも愛されなくとも、私はあなたを愛しています。なぜかというと、私はあなたの生みの親だからです。
あなたの心の奥底に、私と同じ遺伝子が宿っているのです。それは綺麗で、純粋で、素直で、真面目で、健気で、優しい遺伝子です。
誰の心のなかにも、その遺伝子はあります。あなたにも、あります。だから私は、あなたのことを愛しています。
もう愛に飢え、嘆く必要はありません。だってあなたは最初から、愛されている存在なのですから』」
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