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好きだなぁ…
屋上で1人、少女がぽそりと呟く。小さな、小さなそのつぶやきは誰に届くこともなく空気に溶けて消えていった。
「わーん、寂しいよ~!」
「高校別だけど、また遊ぼうね!」
「バイバイっ!」
中学最後の日。
そして、少女にとってはもうひとつ。想い人と離れる日。
「先生、今までありがとうございました!」
ふと野球部で幼馴染の遥が、大きな声でそう言って数学担当だった佐藤先生に頭を下げた様子が目にはいった。遥は数学が苦手でいつも佐藤先生に見てもらってたんだっけ…。
「あぁ、お前もこれから高校で頑張れよ。」
「はいっ!」
頭を軽く撫で優しく微笑む佐藤先生。そして、にこやかに嬉しそうに笑う遥。
あぁ、やっぱり
「好き、だなぁ…。」
少女の瞳がうるみ、雫が落ちる。
貴方のことが好き、好きなのだけれど、
「遥~!帰ろ!」
「おう!では先生、本当にありがとうございました!」
貴方には恋人がいて。
「おー!またわかんないとこあったら来いよ!」
佐藤先生が腕時計をちらりと見て、ほかの先生に頭を下げて駆けていく。
今日は彼女とデートらしい。プロポーズも終わり結婚式ももうすぐ上げると、照れくさそうに話していた。
視線をずらせば、遥たちが楽しそうに帰っていく姿。クスっと笑い、視線を戻す。
聞こえないと分かっているから、最後に1度だけ、貴方に向けて言いたい。
「……好きです。」
好きでした。
大好きでした。
でも貴方は好きになってはいけない人でした。
彼女さんを大切にしてください。
幸せにしてあげてください。
「大好きでした……佐藤先生…。」
屋上にひとり、涙で濡れた顔で少女は微笑んだ。
大好きだった人を見つめながら。
fin
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