第1章.隣の席の彼

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「……別れたい」 「分かった」 「うん、ごめんね」 「綾希(あやき)が決めたことに、文句なんて言えないし」 「……ん」 「一応、聞くけど何で?」 「何となく」 「そか」  高二の春、中学の頃から付き合って来た彼氏と別れた。理由なんて特に無かった。でも、しいて言えば同じ学校じゃないから、それが何か辛くなった。彼は電車で川を一本渡った先の学校に通ってる。  中学から付き合って来たけど、意識したことあっただろうか。思春期の付き合いって、そんなもん。そんなもんだから、たかが川を挟んだだけの距離ですら遠く感じてしまった。  このことを友達数人に話すと、「遠距離っぽくていんじゃない?」なんて聞こえて来たけど、何か多分違くて。別れる時、何も言ってくれなかったのが悲しかった。ただそれだけのことが理由だった。  そんな彼のことを自分からフッておいて、春からダークなわたしが続いていた。 「おはよ、綾希。まだ落ち込んでんの? ヨリ戻せば?」 「や、いい……」  教室の中で日当たり良好な窓側の一番後ろの席で、顔を机に伏しながら生返事するわたしに、沙奈(さな)は呆れた感じで声をかけてる。伸ばしに伸ばした長い髪だけは、吹き込んで来る風を浴びて(なび)いていた。 「めんどい女子やなぁ。てか聞いた?」 「なにが~?」 「クラスに編入してくるっぽい」 「何者?」 「男子一名、や、二名だったかな」 「うそ!? どこから!」  思わずすごい勢いで顔を上げた。 「そこまで知らないけど、なに? 期待しちゃう?」 「これって、チャンスですよ? 沙奈さん」 「ですよね、綾希さん」  すごいバカっぽいやり取りをしてるけど、わたしも沙奈も期待に満ちていた。同じクラスなら、寂しい思いをすることなくて付き合い続けられるんじゃないかと、単純に夢を見ていた。 「とりあえず、二人ならどっちかに期待しとけばいんじゃない?」 「まだ分かんないけど、しとく」 「あたしも混ざってイイすか?」 「沙奈って、男より運動部じゃなかった?」 「いい男なら別っしょ。応援するからさ、混ぜよろしく!」 「どうなるか分かんないし、それは別にいいけど」  春に彼と別れてダークなわたしは、春から編入してくる新たな出会いに何となくの期待をして、始まりそうな恋の意識に予感を感じていた。
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