第1章.隣の席の彼

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 波に乗ることが出来ない。これすなわち、流行の波という意味。確かに新たな出会いに期待を膨らませてはいたけれど、みんな一緒に話しかける。なんてことは好きじゃなかった。そうなると、何かのきっかけでもなければ、声をかけることが出来なくなる。  仲良くなるのがきっかけで付き合えるなら苦労はしない。そう言えば、元カレのあいつとはどうやって付き合ったのだろう。その辺をあまり意識しないまま、付き合っていたような気がする。  考えても話せないし、無理に考えても始まることも無い。そう思っていたら、自然と机に伏して、春風と共に安らかな寝息を立てていた。色気を見せる、そんなのは全くの無縁……そう思ってた。 「おい、ちょっと……」 「ん~~眠い。ごめ、今気持ちいい所だから、声かけないでくれると喜ぶから」 「いや、じゃなくて、呼んでるんだけど?」 「はぁ? 誰が? ってか、さっきから誰……って、な、七瀬さん?」 「てか、顔やべえ。顔が机になってるって、マジで面白すぎ」  顔が机って何? そう思って手鏡を覗いてみた。うわ、机の痕が残ってるし! しかも見られて笑われてるとか嘘でしょ?  「えと、呼んでるって?」 「何かの係とか? 俺は言われたから呼んだだけ。そんだけ」 「あ、どうも」  そっか、そう言えばそんなものを受けてた気がした。意外な所からきっかけが生まれた。でも最悪だった。たぶん印象に残ったとは思う。机顔の女子として。隣の席ってこれがあるから怖いなぁ。  一限が始まるまでに時間があったので、廊下に出て声かけのヌシを探してみると、すぐに声をかけられた。かけて来たのは友達だったけど。 「綾希~こっち! で、顔見た?」 「呼び出したのって、沙奈? や、顔見れてない。それどころじゃなかった」 「きっかけ作ったのに。何で? 何があったん?」 「寝てた。グースカと。いつも通りに机に伏して」 「期待を裏切らない子やね。そういうとこ、応援したくなる。でも、七瀬が声かけてくれた?」 「応援どうも。そう、七瀬さん」 「さん付けって、それはよろしくない! 距離離れるし。呼び捨てで呼んでみ? たぶん、喜ぶ」 「それはさすがに無理。そういうのは沙奈に任せるし」 「なら、そうする。恨みっこなし。おーけー?」 「何を恨むのか知らないけど、別にいいよ」  
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