第二話「新しい家政婦」

42/44
前へ
/44ページ
次へ
 花衣は信じられない、という顔をした後で、遠慮がちにその二枚の万札と六枚の千円札を受け取った。  そして支払われた給金を手に、一砥に向かって深く頭を下げた。 「あの、何て言うか、ただびっくりなんですけど……。ありがとうございました……」 「別に礼はいい」 「そんな、だって……本当のところを言うと、あそこでの仕事は自分には向いてないなって思ってたし、いくら時給がいいからって、またああいうお店で働くのは怖いなって思ってて……」  そこまで話して、花衣は少しだけ涙ぐんだ。 「だから本当に、すごく感謝しています……」  一砥はギョッとして、「おい、このくらいのことで泣くな」と、慌ててその肩に手を置いた。 「君を泣かせたりしたら、奏助に何て言われるか……」 「え?」 「いやこっちの話だ。とにかく泣き止め。これは命令だ」 “これは命令だ”という一砥らしい一言に、花衣は一瞬ポカンとして、そしてすぐにクスリと笑った。 「分かりました……」  エプロンの裾で濡れた目尻を拭い、花衣は可笑しそうにクスクス笑った。 「それにしても、雨宮さんは女性を慰めるのが下手ですね」 「当たり前だろう。そもそもそんなことを得意になりたくない」  その返しに、花衣は堪え切れずに「あははっ」と声を出して笑った。     
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1008人が本棚に入れています
本棚に追加