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第二話「新しい家政婦」
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LuZの本社ビルから歩いて五分もかからない距離に、一砥が住むマンションはあった。
一階にはフロントが設けられ、二十四時間専門のコンシェルジュが常駐する高級マンションの十四階、1405号室が一砥の部屋だった。
男が一人暮らしするには充分すぎる3LDKの間取り、リビングキッチンだけで十五畳の広さがある。
これまで一度も女性を連れて来たことのないその部屋の、リビングの大きな長椅子の隅で、花衣は借りて来た猫のように大人しく座っていた。
花衣の座る長椅子とL字型に配置された一人掛けソファに腰を下ろし、一砥は「で?」と声を上げた。
「どうしてあんな店でバイトしていたんだ? 理由を教えてくれ」
「……そんなの、ただお金が必要だったからです」
「そんなに金に困っているように見えないが。叔母夫婦はバイトのことは知っているのか」
「……知りません。ファミレスで働いているって嘘をついてるから……」
堅い表情を崩さないまま、花衣は答えた。
「私、学校を卒業したら留学したいんです。ニューヨークでもパリでもミラノでも、とにかくもっとファッションの勉強が出来る街へ行きたいんです」
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