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私の父は、私が三才になったばかりの頃、自動車事故で亡くなった。 寂しいけれど、私に父の記憶はほとんどない。 母と二人暮らしのアパートに、一枚だけ飾られた父の写真。 「顔を見ると思い出して、また泣いちゃうから……」 母はそう言って、残りの写真をきれいにアルバムに貼り、まとめて段ボール箱に入れ、押入れにしまった。 でも、私は知っていた。夜中、時々母が一人でアルバムを取り出し、それを眺めながら、笑ったり、泣いたりしていた事を。 母が高校生の時に、父と出会った。 母が通学の為に乗っていたバスに、傘を忘れて降りてしまった。 ほとんど利用しないそのバスに、たまたま乗車していた父。忘れた傘を母に渡そうと、自分が降りるバス停でもなかったのに、バスを降りてしまった父。 父に声をかけられ、傘を手渡された時、二人の間にビビッと電気のようなものが走った。 一瞬で惹かれあった二人にとってそれは、『運命の出逢い』だったのだろう。 父は母よりも八才年上で、広い心で母を優しく包みながら、愛を育てていったそうだ。 ……恥ずかしい……自分の両親のそんな話を聞くのは、ものすごく恥ずかしい…… 私の恥ずかしい気持ちなんか関係なく、嬉しそうに、幸せそうに話す母。 そんな母を見て、結局私も、温かい気持ちになってしまうんだけど。 母の短大卒業を待って結婚した二人。 母の希望と父の考えで、正社員として就職した母。 結婚に就職……慣れない生活に一生懸命な母を、家事を手伝ったり、母の話をじっくり聞く事などで、父は支えてくれたそうだ。
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