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『俺が小学一年の時、病気で亡くなった。元々、あまり身体の丈夫な人ではなかったんだ』 「・・・」 私が父の事を話した時、黒崎課長はどんな想いで聞いていたのだろう。 黒崎課長が優しく微笑んでいた事は、なぜか鮮明に覚えているが。 『中学一年の時、父親が再婚した。ドラマなんかでありがちな展開は、なかったよ。明るくてパワフルで、いつも笑っている。新しい母は、とても素敵な人だった』 黒崎課長の話し方は、とても穏やかだ。新しいお母さんは、本当に素敵な人なのだろう。 ……ならばなぜ……黒崎課長の声音に、力がないように感じるのだろう。 『すぐに弟も生まれたけど、同じように愛情を注いでくれた。本当に自然に『お母さん』と呼べたよ。今の家族があまりにも自然で、俺を産んでくれた母親の事、忘れそうになってる自分に気付いた』 「っ!」 『色が白くて華奢で、いつも静かに笑ってた。どこか儚い雰囲気があって……初めて君に会った時、そんな母さんの事を、久しぶりにはっきりと思い出したよ』 「課長……」 黒崎課長と、私は違う。……でも黒崎課長の想いが、理解できるように感じた。 『時々、妙に不安になる。俺を産み育ててくれた母さんが、俺の中でどんどん薄くなっていくようで……『忘れるはずない』そう思っていたのに、日常の中にだんだん埋もれていっているようで……俺は…俺はそんなヤツなのか?そんな薄情……』 「課長!よかったら、うちに来てください。私、待ってますから」 声を荒げない課長が、逆に怖かった。課長が、静かに自分を貶めていく言葉を、これ以上吐き出させたくなかった。
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