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私の様子がおかしいと感じて、美冬に連絡をとったのだ。 いつもはあおるように飲む生ビールの中ジョッキ。乾杯もせずに、それぞれ一口だけ口をつける。 美冬に促されて、黒崎課長との事を初めから話した。美冬にも言ってなかった、ずっと黒崎課長との関係を続けているという事も…… 美冬と玲子さんからの無言の圧力。 私は小さく息を吐いて、生ビールに口をつける。いつもはおいしいと思うのに、今日は苦く感じるだけだ。 「繭子は知らないと思うけど。秘密にされてる訳じゃないから、言うね」 玲子さんが、私を見つめながら口を開いた。 「黒崎課長の奥さんは、専務の娘だよ。あのスピード出世も、そういう事なんだろうって。まっ、あの人、人当たりはいいから、はっきりと言う社員はいないけど」 玲子さんは、黒崎課長の事をよく思っていない。『うさんくさい笑顔の下で、何を考えているのかわからない』というのが、玲子さんの黒崎課長の評価だ。 「だから、絶対に離婚しないよ。黒崎課長は」 少し語気を強めて言った玲子さん。 私は小さく頷いた。 「黒崎課長と結婚したいとか、そんな事一ミリも思ってない。『もっと早く出会っていれば』なんて事も言わない。“奥さんも子どももいる”黒崎課長に惹かれたんだから….…」 一気に言うと短く息を吐き、言葉を続けた。 「私は、わずかな時間でもいいから、一緒にいたい。一人の“女”として、黒崎課長の傍にいたい……!」 想いを込めて、美冬と玲子さんを交互に見た。 黒崎課長のお母さんが亡くなっている事、名前が『まゆこ』だという事は、美冬と玲子さんには話すつもりはない。 それが黒崎課長のやり方だと言われそうな気がしたし、私一人の心の中に留めておきたかった。
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