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……
私と芳が抱き合っているというのに、
光正は何ごとも無かったかのように
私達の元へと歩み寄ってきた。
言わなくちゃ。
もうこれ以上、引き延ばせない。
芳が強引に私を離そうとしたので、
光正を見つめたまま芳の手を握る。
言わなくちゃ。
言わなくちゃ。
言わなくちゃ。
言葉は出たがっているのに、
それを舌が封じ込めていた。
…これで何もかも変わってしまう。
私の人生も、
大きく変わるに違いない。
でも。
この人のいない未来なんて、
考えられないのだから。
言い淀む私の手をそっと押しやって、
芳が口を開いた。
「雅、もう遅いから番匠さんと帰りな」
それは時刻のことを
言っているはずなのに、
何故だか私達のことを指しているようで。
遅くない!遅くなんかないんだよ!
だって芳はまだ生きているんだから。
思わず焦って私も口を開く。
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