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「光正…ごめん、私…。
やっぱり芳が好き」
光正は哀し気に微笑み、
それから小さく頷く。
それを見た芳がバチンと私の背中を叩き、
ワザと明るくこう言った。
「バカかお前?!トチ狂ってんなよ。
俺か?俺なんか好きになっても無駄…」
その芳を遮るように右手を上げ、
光正は私に向かって答える。
「…うん、何となく分かってた。
そうなんだろうなって」
「自分でも止められないの、
だって芳が私のことを好きだって。
だって芳が、芳が…」
この場で泣くのは卑怯だと思うのに、
緩みきった涙腺は簡単に涙を放出する。
「ああ、もう泣くなよ。
いいよ…井崎君のところに行きな」
「い、いいの?」
「いいも何も。
人の気持ちは変えられないから」
「み、光正のことも好きだけど、
なんかもう芳の方は年季が入り過ぎて
片想いが実るなんて思ってなかったから、
だから、何て言うか…」
「ああ、もうそれ以上言わなくていい。
これでも一応、傷ついてるんだからな」
「ご、ごめん。ごめんなさい」
泣き笑いのまま振り返ると、
芳は大きな溜め息を1つ吐いて
絞り出すような声で呟いた。
「せっかくだけど、
俺、雅とは付き合わないよ」
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