お水

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お水

健治は小学校に入った時、 神棚へ上げるお水を 台所から離れに運ぶ役目を仰せつかった。 毎朝母の後に従い、健治にはおたふくさんが従って、 三人義父の待つ離れに通った。 当然義父と一緒に参拝もする。 白い器が多い中で、 柏田家は何故かお水はガラス製だった。 猪口より少し大きいグラスに、 お水を2つ、小さな黒い盆に載せて運ぶ。 早起きは辛かったけれど、 おたふくさんの言葉でいつも健治は機嫌よく仕事した。 「ぼっちゃんは、神様に喜ばれてますねえ。 ほら、お水にこんなに気泡(あぶく)がついて。 神様は大好きな人が来ると、 お水にいっぱい気泡をつけるんですよ」 神様に自分が喜ばれていると思うと、 健治は嬉しかった。 お水をお供えする。 父の上げる祝詞を聞き、 学校へ行く時は「行ってきます」のご挨拶。 毎日の日課を一つでも忘れたりすると、 健治は落ち着かなかった。 一連の朝の行事が 離れの神様と交わした約束事のように思えて来る。 健治は父母やおたふくさんとも違う、 学校の友達とも違う親しみと繋がりを 神様に感じるようになっていた。
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