遺言

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「じゃ、そう言う事だから」 マユミは良枝の前に置かれた遺言書を取り上げ、 数度ひらひらさせると折り畳んで封筒に差し込んだ。 良枝はピクリとも動かず、遺言書のあった場所を凝視している。 顔が真っ青だ。 「良枝さん。ちょっと!」 マユミは良枝の肩を掴むと容赦なく前後に揺すぶる。 「二週間あげるわ。 二週間以内に不動産の権利書と通帳、証券類を全部揃えてちょうだい。 あと、住むところも探してちょうだいね。 ああ、あなた実家がお金持ちだったわね。また出戻ったら?」 ふん、と鼻をならすとマユミは立ち上がる。 「太田さんはあなたの手伝いにしばらく置いとくけどゆくゆくは解雇します。 それと健治くん」 良枝に寄り添い、掴まれた方の肩をさすっている健治をマユミは上から睨みつけた。 「離れには近づかないでね。 あそこは資産価値を調べるのに鑑定士をいれますから。 大したことなければ、取り壊して息子のスタジオにするの。」 健治の憎悪の視線をマユミはふふん、とせせら笑うようにいなし、 逆ににらみつけてきた。 ギリシャ神話のメデューサみたいだな、と健治は思った。
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