再会

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「お久しぶりです」 俺は頭を下げた。ゆり子は口に手をあてたまま身動きできない。 やっぱり、来なきゃよかったか。 「あ…お久しぶり…です」 頭を下げるのもぎこちないし、目を伏せたままだ。 「椎名さん、よかったらそっち使って」 受付カウンターの奥から、男性が声をかける。 「あ、はい……」 応接セットの方にゆり子が手を差し伸べた時、 フロント脇の、薄暗い廊下から声がした。 「ゆりちゃーん、半日デイの人、降りるの手伝ってぇー!」 ゆり子が振り向き、またこちらに向き直った。 どうしようか困っているようだった。 俺は連絡せずに来たことを後悔した。 この人は、働いているんだ。 「お忙しいんですね。 日を改めます。お仕事中にすみませんでした。」 俺は頭を下げ、帰ろうとした。 「待って。」 信じられない事に、ゆり子に呼び止められた。 ゆり子は受付カウンターで何か書いた。 「ここで、7時半に待ち合わせしませんか。 予約しておきます。 遠い所せっかく来てもらったのに…すみません」 出した掌に、押し込むようにメモを渡す。 メモには、店の名前と簡単な地図が書いてあった。 ゆり子は一礼して薄暗い廊下を奥へ駆けて行く。 追い返されずに済み、俺はほっとして施設を出た。 あわただしい再会だったが嬉しかった。 短い時間でさえ、俺はゆり子に見とれていた。 ゆり子はきれいになっていた。
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