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 灰色の空から零れ落ちる、純白の結晶。ハラハラと舞い降りたそれは、溶けることなく積もってゆく。  そんな純白の世界で。理央は楽しそうに、空色の傘をくるくると回しながら帰路に就いていた。純白の絨毯に刻まれる足跡。そのサク、とした感覚が楽しくて、つい小幅になってしまう。  ふふ、と理央は笑った。雪は、好き。とても綺麗で、美しくて、冷たくて、……そして何より、無音の世界を形成するから。雪は音を吸収すると言われている。それによって作り出される静かな世界が、理央はとても好きだった。 「理央!」  突然、闇を切り裂く光のように聞こえてきた声。理央はゆっくりと振り返る。  そこには、保育園の頃からずっと一緒に育ってきた、幼馴染の彼。雪を頭や肩に降り積もらせて、荒い息を吐いていた。防寒具を何もつけていないその姿は、見ていてとても寒い。  だけど、逆に言えば、それほど急いでいたということだった。鞄を持っていないから、帰り道ではない。きっと何かがあって、理央を学校から追いかけて来たのだろう。 「……どうしたの?」     
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