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「全員が揃って行くと山犬様の怒りを買うか、逃げられるだけかもしれない。誰が代表になって行くか決めようぜ」
「どうやって決める?」
「定番のジャンケンで決めよう!」
じゃーんけーん、ぽんッ!
そして勝敗が決まった。
負けて山へ赴くことになったのは、何と一人の少女。名をサトミ。
「嘘……」
サトミは目を丸くした。他の若者たちは満面の笑みで彼女を激励する。
「いってらっしゃい、サトミちゃん!」
「頑張ってね!」
「一人で?」
「一人で!」
「犠牲は少ない方がいい!」
「そんな……」
絶句するサトミに、町長が何やら綺麗なものを差し出してきた。
「はい、これ。御守りだよ、貸してあげよう」
「何ですか、これ?」
「竜の鱗で作られたブレスレットだ。随分古くて貴重なもので……」
鱗は平たいエメラルドのようで、揺れるとキラキラと光の粒を散らす。
「暁の光と風に晒し、虹の泉で洗われて作られたものだ」
◇◇
サトミは集会場を出て、遠吠えがする山へ向かった。その頂きには社がある。
「信じられない、本当に一人で行かされるなんて。みんな薄情だわ」
サトミは耳を澄ました。野鳥の鳴き声と、風に揺れる草木が擦れる音が聞こえる。肝心の遠吠えはまだない。
「取り敢えず山頂の社に行ってみよう」
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