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山道は半年に一度の手入れしかされておらず、社へ通う人も少ないため落ち葉や雑草で覆われている。
「あっという間に着いちゃったわ」
小さく低い山なので、十五の少女の脚でも余裕だった。山頂は開けて日光が当たり、心地良い空気が満ちている。サトミはおやつでも持ってくれば良かったと思う。
「こんにちはー。どなたか居ませんかー?」
木造の古びた社に向かって声を掛けてみるが返事はない。現在、この山はサトミ以外の人は居ないらしい。
人間は居ないみたいね。人間は。
ふう、と息をつくサトミ。その時、背後で音がした。草叢を分けてのそのそと歩み寄る音だ。
犬かな? とサトミは振り向く。
町長は言っていた。遠吠えはきっと、山犬の類であろう、と。しかし現れたのは犬ではなく、爽やかな若葉色の鱗を纏う生き物。長い尾と鋭い爪と牙が生え、頭部には角、背中には翼。額には赤い炎のような紋様がある。
これは竜だ。
体高は大型犬くらい。サトミの目線と首を伸ばす竜の目線が合う。
竜はサトミの手首にあるブレスレットを見て口を開き、人の言葉を発する。
「それは……」
竜は見開いて震える。
「鱗?」
「え、うん。そうだよ。竜の」
「怖い、怖い……」
「は?」
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