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「寝付きが良くなる、もふもふ感触と眠り歌で添い寝をしてくれるという兎だ。さあ、この兎煎餅を持って」
「何ですか、このお煎餅は」
「ラビットフードだよ。これをやって連れてきなさい」
「ああ、成る程。餌で釣るんですね!」
町長は懐から指揮棒に似た銀の杖を取り出した。
「夢兎は夢世の広場にいる。さあ、いってらっしゃい」
町長が振った杖の先から光の輪が現れて、サトミの足元の床にぴたりと張りつく。
「え、急に! 心の準備がまだ……!」
光の輪は穴になり、輪の中心に立っていたサトミを落とした。ひゅーんと落ちていくサトミ。マンホールの中に落ちていくように感じた。
◇◇◇◇
サトミはハッと見開いた。何だか一瞬、夢を見ていたような感覚が残っている。朝、目が覚めたばかりの働かない頭のようで、少し締めつけられた痛みがある。
周囲はふわふわの綿飴みたいな虹色の雲。見上げると淡い星空が広がる空間だ。
「ここ、町長が言ってた夢世の広場ね」
夢兎はどこ? とサトミは辺りを見渡すが、兎は一羽も見当たらない。足音もない。ただ、静寂があるのみ。
「おかしいな。こんにちはー、夢兎さんはいらっしゃいませんかー?」
声を張るが兎は出てこないので、サトミはまた声を張る。今度は持ってきたラビットフードの煎餅を掲げて。
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