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「ここに美味しいお煎餅があるよ、兎さーん。出てきてー!」
すると遠くから小さな生き物が二匹、駆けてきた。耳が長く、ぴょんぴょん跳ねてくる。
「お煎餅、ちょうだーい!」
「来た」
このお煎餅を持ってきて正解だったわ、町長。
サトミは傍まで駆け寄ってきた夢兎二羽に煎餅を渡して尋ねる。
「あなたたち二羽だけなの?」
「うん。今は他のみんなは出払ってるよ」
「寝付きの悪い人が多くてね。ねんね、ねんねしに行ってるの」
「そっか……」
「君も夢でお困りなんでしょ?」
「うん。実は……」
サトミは竜のことを話した。
◇
サトミは夢兎二羽を連れて、山の社に戻った。
「眠れない竜さーん、また来たよー!」
呼び掛けると、竜がのっそり現れた。
「添い寝してくれる兎に来てもらったわ」
夢兎二羽が元気いっぱいに跳ねる。
「来たよ、来たよー!」
「さあ、ねんね、ねんね!」
夢兎たちは竜を草花の上に伏せさせ、もふもふの体を押しつけた。竜はそっと瞼を閉じる。夢兎たちは歌った。
優しい花の匂い、そよ風の調べ。寒くないよ。涙は拭ってあげる。傍に居てあげる。手を取って、明日は光が差す方。一緒に、開かれた先へ。
これは眠り歌だ。竜が眠れるようになれば、町の人も遠吠えに悩まされることはなくなる。
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