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俺は、とっさに何も言えなかった……
やっぱり、匠くんだ。今、美羽と一緒にいるのは俺なのに、美羽は匠くんだけを見て想っている……
胸が、ギュッ!と強く握られたようで息苦しい。
その後も美羽は、チョコバーを作った時の様子なんかを話していたけど……
「ああ」とか「うん」とか、そんな簡単な相槌しか打てなかった。
気が付いたら、美羽ん家の前まで来ていた。
「ヒロくん、ありがとう!そのシリアルチョコバーね、今回は心配だったから、あげたのヒロくんと匠くんだけなんだよ!」
自転車を止めた美羽が、俺が持っている茶色の紙袋を指しながらそう言った。
「そう…なんだ」
「うん!でね、ヒロくんがいいアイデアをくれたから、今回は一番、ヒロくんのラッピングにがんばったの!」
「っ!」
俺は、小さく息を呑んだ。それに気付いていないだろう美羽は、俺の好きなフニャッとした笑顔を見せた。
無意識のうちに両手が伸びた。美羽の両頬を、そっと両手で包んだ。美羽はキョトンとして、俺を見ている。
「夜になって、寒くなったよな。…美羽の頬も鼻も、赤くなってる」
ごまかすようにそう言ったけど、赤くなっているのは、本当だ。
伝わるはずのない、美羽の頬の柔らかさとか、温かさとか……手袋越しに感じられるような気がして、微かに両手に力が入った。
クスッと美羽が笑った後、美羽の両手が俺に伸びてきた。
「ほんとだね。ヒロくんのほっぺも鼻も、赤くなってるよ!」
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