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結局、食堂に向かった美羽たち三人と合流する時間もなくなり、俺は一人教室で、急いで弁当を片付けた。
……誰にチョコレートを渡されても、俺の心は動かない。俺が欲しいのは、たった一人からのチョコレートだ──
「あっ!見てくれよ。これ、美羽ちゃんから貰ったんだ!」
マキが嬉しそうに、水色のリボンのついた袋を見せてきた。
ピクッと、わずかに肩が揺れたかもしれない。俺はチラリと見て、すぐに視線を戻した。
「“義理”だってわかってても、やっぱ嬉しいよな。美羽ちゃんから貰ったって言えば、みんなに自慢できるし!」
「……“いつもありがとう”チョコだから。…美羽は“義理チョコ”って言い方好きじゃないんだ。いつもお世話になっている人に感謝を込めて渡すから、それは“いつもありがとう”チョコなんだ」
はしゃいでいるマキから視線を逸らしながら、淡々と告げた。
「そっか~。そういえば美羽ちゃん、そんな風に言ってたな。なんか、美羽ちゃんらしいよな~」
俺が初めて、家族以外からバレンタインデーにチョコを貰ったのは、小学一年の時に美羽からだった。
渡されたチョコチップクッキーは自分が作ったのだと、得意気に笑った美羽の顔を、俺はまだ鮮明に覚えている。
あれから小学校六年間と中学校三年間、毎年バレンタインデーには、美羽の手作りのチョコチップクッキーを貰っている。
毎年なぜか“チョコチップクッキー”は変わらない。が、美羽曰く、レシピが難しいものになったり、ラッピングを工夫したりと、少しずつ進化しているそうだ。
……俺は、美羽から貰う物だったら、何でもいい。それだけで“特別”なのだから。
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