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「あっ、広樹の分は、また直接渡しに来るって。美羽ちゃんが」
隣の席から立ち上がりながら、マキがそう言った。
「ああ」
素っ気なく返しながらも、頬が緩みそうになるのを懸命に堪えた。
「嬉しいくせに、無理しちゃって」
俺に背を向けたマキがボソッと呟いたけど、俺は聞こえないフリをした。
俺とみちるは、家がお隣同士の幼なじみだ。
親同士が仲がいいし、保育園も同じだったし、自然とみちると過ごす時間は長くなった。
だが俺とみちるは、特別仲が良かった訳じゃない。基準はよくわからないけど、“普通”だったと思う。
みちるへの気持ちが大きく変わったのは、俺たちが保育園年長組の時だ。
当時の俺は、かなりやんちゃだった。
勝ち気な性格の三才上の姉に、下僕のように扱われていた。反抗すれば、徹底的に口でやり込められる。
自然と手が出て、暴力に訴えるようになる。結局それでも敵わなくて、溜まったフラストレーションを、保育園ではらしていた。
俺は先生からも友達からも、どうしようもない乱暴者として見られていた。
そんな時、事件が起きた。
地域の文化祭に出品する為に、年長組みんなで作っていた作品の一部が壊れていた。
先生がそれに気付く少し前まで、俺は作品の傍で遊んでいた。
当然のように、無言の疑いの目が俺に向けられた。
「おれ、なんにもしてない!こわしてない!」
そう訴えたけど、みんなの目は変わらなかった。
そんな時、庇ってくれたのがみちるだった。
「ヒロくんはらんぼうだけど、うそはつきません!」
「みんなでがんばってつくったさくひんを、わざとこわすひとはいないとおもいます。こわれちゃったら、またなおせばいいので、ほんとうのことをおはなししてほしいです」
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