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美羽が両手で恭しく差し出したそれを、やっぱり素っ気なく受け取ってしまう。
子どもの頃は、素直に「美羽ちゃん、ありがとう!」なんて言えたのに……
「美羽、送っていくから。とりあえず行こう!」
「うん!ヒロくん、ごめんね。ありがとっ!」
心配性の俺が、こういう時に譲らないのを美羽もわかっているので、素直にお礼を言った。
「ヒロくん、自転車はいいの?」
「帰りは、トレーニング代わりに走って帰る」
「ひょ~!ヒロくん、さすがだ!」
俺が歩くと、美羽も自転車を押して歩くから。……ほんの少しの二人だけの時間を、許してほしい……
「今回はね、チョコチップクッキーじゃない物を作ったの」
二人で並んで歩きながら、美羽が話し始めた。
「ちょっと前にさ、ヒロくん言ってたでしょ。ナッツが好きだから、それが入ったクッキーはないの?て」
「ああ……」
そういえば、そんな事言ったかも……特に深い意味はないけど。
「私、チョコチップクッキーには自信があるけど。そろそろ違う物も作ってみるかなぁて思ったの」
「うん、美羽のチョコチップクッキーは……好きだよ」
俺の顔を見て、ニヘッと笑った美羽。その、力の抜けた笑顔も好きだ……とは、言えないけど。
「でね、レシピをいろいろ検索して、いいの見つけたの!じゃ~ん!『ナッツ入りシリアルチョコバー』!!」
ポケットから便利な道具でも出したような勢いで、美羽は言った。なんとなく、得意気だ。
「…ふ~ん……」
「すぐに揃う材料で、レシピも簡単!しかも、めっちゃおいしかったのっ!……それと、匠くんもアーモンドチョコが好きだった事、思い出したから……」
美羽が俯きながら、優しく笑ったのがわかったから……
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