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4月。 高校二年になり、今まで過ごしてきた友人ともおさらばして、果たして上手くやっていけるかどうか。 そういう不満は少なからずある。 誰にだってある。 「ふぅ……」 新しい仲間への期待と不安。 特に不安は大きい。人に言えない秘密を抱えた僕にとっては。 「おおっ!」 生徒達からは歓声が上がり、一斉にその場へと殺到する。 貼り出された大きな紙。 期待と不安に一際大きくなる鼓動を全身で感じる。 新しく貼り出された新クラス名簿に、自分の名前を探した。 「あった。よし」 自分の名前を確認し、一足早く新クラスの教室へと移動を開始する。 重いカバンを肩から下げ、後ろを振り返ると、偶然、僕は彼女と目が合った。 春の涼しい風が、僕の方へ吹き込んでくる。 「あ……」 彼女の目は、僕の事など映していない。 おそらく気に留めてすらいないだろう。 黒縁のメガネに茶色がかった、柔らかそうな黒髪のボブカット。 「綺麗だね、あの子……」 一人の女子の声が、耳に届いた。 綺麗だ。確かに、綺麗。 でもその表情は、ひどく憂鬱で、つまらなそうで。 ーーキミは、毎日が楽しい? 心の中で問いかけた。もちろん、返事はない。 「あっ……」 彼女に目を奪われていたことに気づいて、思わず赤面する。 彼女の名前は、確か。 確認するために、各クラスの名簿へもう一度目を通す。 あった。しかも、僕と同じクラス。 それだけのことが、なんだか、堪らなく嬉しかった。
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