壊れた鍋が歌うとき

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むかしむかし、あるところに大きな鍋が落ちていました。 鍋はすすだらけで取っ手が取れておりました。 たくさんのスープを作り、たくさんのソースを作り、たくさんの人の舌と胃袋を幸せにしてきた、大きなお鍋。 けれども、取っ手が壊れたという理由で捨てられてしまいました。 からっぽのお鍋は空に向かって転がっているだけです。 外側はすすだらけで、内側は傷だらけ。そして壊れて捨てられてしまったのです。 雨がポツポツと降ってまいりました。 その雨がからっぽの鍋に入り、傷だらけの内側で跳ね返りました。 何回も何回も跳ね返り、ポロンポロンと美しい音を奏でました。 ポロンポロンは美しく、けれどもとても悲しい音でした。 美しくて悲しい音が幾重にも幾重にも広がって、空に向かって立ち上っていきました。 それはそれは素晴らしい歌になったのです。
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