壊れた鍋が歌うとき

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「これはこれは、なんと美しい音色だろう。さぞや美しきものが歌っているに違いない」 空から神さまが降りてまいりました。 白くて長いひげを生やし、白くて長い服を着たおじいさんの神さまは、鍋を見て、たいそうおどろきました。 「なんと!この素晴らしい歌を歌っていたのは、この壊れた鍋なのか」 神さまは鍋にお礼を言いました。 「鍋よ。お前の歌声は大変に素晴らしい。 わたしはお前に感動したよ。 だから、取っ手を直してあげよう」 「いいえ」 鍋は歌いながらお願いをしました。 「僕の取っ手は壊れたままでかまいません。そのかわり神さま、お願いがございます」 「おう、なんであろう。お前の願いをひとつだけ叶えてあげましょう」 「神さま神さま。僕を助ける代わりに、木しゃもじさんを助けてください。 割れた鍋の僕と共に、裂けてしまった木しゃもじさんも捨てられてしまったのです。 遠くの山に投げられて、行方もさっぱりわかりません。 僕の歌が遠くの神さまに届いたならば、きっと木しゃもじさんにも届いたことでしょう。 神さま、どうか木しゃもじさんを助けてください。 そして、彼女にもう一度会わせてください」 「それはつまらんな」 神さまはそう答えました。
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