ある男の子のお話

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ある男の子のお話

むかしむかし、というほど昔でもなく、あるところ、というほど遠くもない所のお話です。 1人の男の子がいました。 彼は勉強をしていなくても成績優秀でした。 彼は練習をしていなくても運動神経抜群でした。 彼は手入れをしていなくても容姿端麗でした。 誰もが彼を羨ましがりますが、彼のことを嫉妬する人はいませんでした。 彼を自分なんかの嫉妬の対象にすることがおこがましくて恥ずかしいことだと分かっていたのです。 すべては彼を中心にして世界がまわります。 なんて素晴らしいのでしょう。 彼はすべて正しいのです。 みんなは彼の話す言葉だけを聞いて、彼が歩く姿だけを見て、彼が嗅いだ花の匂いだけを嗅いで、彼の食べた食物だけを食べて、彼の触った物だけ触るようになりました。 そして、 そして彼は独りぼっちになりました。 彼の周りには人がいっぱいいるけど、独りぼっちでした。 みんな彼を見ているけれど、彼の心を見てくれる人はいませんでした。 なので彼は決めました。 彼は彼をやめることにしました。 みんなが彼に反対を唱えました。 彼はとても嬉しかったです。 はじめて彼は誰かと会話をすることができました。 人との対話がこんなに楽しいものだとは知りませんでした。 しかし、会話はそう長くは続きませんでした。 彼が彼をやめることをお許しください。 どうか私たちの命でお許し下さい。 彼は本当に独りぼっちになってしまいました。 独りぼっちがこんなに辛いものだとは知りたくありませんでした。 彼は悲しくて悲しくて涙が止まらなくなりました。 やがて彼の涙は空を湿らせました。 彼が悲しむことに憐れんだ世界がせめてもと、海を割って彼の涙をとめようとしました。 それでも涙は溢れ続けます。 彼は泣きつづけました。 7日後そんな彼にある少年が訪ねてきました。 少年は彼と言葉を交わし、彼と共に歩き、彼と一緒に花の匂いを嗅ぎ、彼と肩を並べて食物を食べ、彼の手に触れたいと言いました。 少年は自分のことをノアと言いました。 いつの間にか彼の瞳から涙は流れていませんでした。
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