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「この街は魔物に囲まれ未曽有の危機に瀕しております。街に居る者はみな持てる力を振り絞って立ち向かっておりますが、街の門を閉ざして立てこもることはや17日。外からの補給も無く食料の備蓄に底が見えつつあります」
「ふんふんなるほどなあ。そりゃ大変だ」
同情の素振りも見せず他愛ない世間話のように相槌を打つ少女の瞳は、その姿に似合わない傲慢さ、その場に馴染まない無邪気さ、その相手に相応しくない優しさを合わせ備えた、ひと言で表すなら異様な光を放っている。
「援軍を求める使者を出そうにも圧倒的な数で幾重にも包囲され、たとえ死を賭しても血路を開くこともままらなない有様です」
一方で、ラインハルトの言葉に周りの兵士たちは改めて現実を突き付けられる。 いくら倒しても減らない無尽蔵の敵。目に見えて減っていく備蓄。充分な手入れもできず傷んでいく装備。そしてなによりも、彼らの疲労がとうの昔に限界を超えていた。
「このままでは」
言いかけて、ためらった。
それは誰もが心の片隅に思いながらも意識から遠ざけてきた言葉。口にしてしまえば、きっともう士気を維持することは出来ない。その瞬間から崩れていくに違いないことを。
「このままでは、なんだ。アンタの言葉を聞かせてくれよ」
しかし少女は顔色ひとつ変えずに先を促す。恐らく彼女にはわかっているのだ。そして本当はラインハルトにもわかっていた。
ここで言葉にしなくても、それで結末が変わるわけではないということを。
男は意を決した。
「このままではこの街は魔猿に滅ぼされます。貴女が伝承にある【聖女】であるのならば、どうか」
視線を落とし頭を下げる。
「どうか我らにこの状況を打開する力を、聖女の刻印をお授けください。その願いが叶うならばこのラインハルト、身命の全てを貴女に捧げることを誓います」
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