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1.
死んじゃった……。
祭壇の前に座ってお焼香をしていた舞(まい)の後ろで誰かが、ずず……っ、と鼻をすすった。あまりにも若い死を悼む気持ちは誰しも同じだ。ふっと顔を上げると、黒枠の、黒いリボンをかけられた遺影が目に入った。
この人が、北園(きたぞの)浩樹(ひろき)くん、かあ……。
舞はしんみりと写真を見つめた。写真の浩樹は学生服を着て、しあわせそうに笑っている。どこから見ても一点の曇りもない、快活な青年だった。
やさしそうな笑顔……。ぼんやりとそんなことを思い、胸が切なくなってくる。初めての対面が、こんな形になってしまうなんて。
浩樹の小さい頃の写真なら、父親から見せられていた。それは浩樹が5歳くらいのときのもので、浩樹自身の父親と母親と一緒に写っている家族写真だった。
小さい頃の浩樹も、この遺影のような笑顔だったっけ、と舞は脳裏に思い起こされた写真と重ねてみる。そして確信する。確かにこれは浩樹だと。あの写真の中の5歳の浩樹が成長して、今、目の前の写真の中にいる。
陽だまりのようなあたたかい笑顔を見つめていたら、一度も会ったことがない浩樹と、ずっと昔から親しかったような、とても懐かしい気持ちになってきた。そして他人事のように遠い浩樹の死が、急にリアルに押し寄せてきて涙がこみ上げてきた。
浩樹くん、早すぎるよ。18歳で死んじゃうなんて、親よりも早く逝っちゃうなんて、親不孝だよ!
舞は零れそうになる涙を隠すようにして、立ち上がった。そしてもう一度、写真の浩樹を見つめる。
北園浩樹……。一度も会ったことがない、そしてもう二度と会うことのできない、わたし、夢野(ゆめの)舞の許婚者……。
今日は浩樹のお通夜だった。
「いやよ! こんなの!」
祭壇の前を去りかけたとき、叫び声がした。驚いて声がした方を見ると、正座をして親族席にいた浩樹の母親が床に突っ伏すようにして、泣き崩れていた。
「浩樹は死んだと決まったわけじゃないじゃないの! だって遺体だってあがってないのよ! 信じられない! 信じられないのよ! あの子が……、あの子が自殺するなんて……!」
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