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「貴様、なんのつもりだ」
役人が刀を向けていた。
「いやあ、俺だってこんな夜遅くに出歩きたくなんかなかったんですよ。でも仕方ないじゃないですか。丑三つ時に辻斬りが現れちゃ」
男の口元が役人に向けてつり上がった。
「夜っていうのはさ、草木と人間様は眠りにつく時間なんだ。真夜中に目が冴えてしまうっていうのは問題ありだろ」
役人が後ずさる。片手にしていた提灯を地面に下ろし、刀を両手で握りしめた。
「なるほど。わたしは見廻中に辻斬りと遭遇した。それを叩き斬った。なんの落ち度もない」
見開かれた目が血走り始める。それを見つめる男はため息をついて。
「あんた、目の下に隈ができてるぜ」
「やかましいわ!」
いきなり斬りかかってきた。男の肩にいた猫たちが飛び降りる。空を斬る刀の音。
「チッ」
暗闇のせいでどうやってよけたのかはわからないが、着地する草履の音だけははっきりと聞こえる。
「あんたには治療が必要だ。ぐっすり眠れる治療がな」
男は懐からなにかをだした。なんなのかが暗闇でわからない。しかし役人はさらに目を開いて笑う。
「クックック、飛び道具でもない限りわたしの剣にかなうものか」
「うーん、飛び道具ではないんだけどな。でも飛び出すかなぁ」
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