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面倒臭そうにつぶやく男は左手に提灯を持ったまま右手を突き出した。
「なんだそれは?」
男の手の中にあったのは刀の柄だけ。銀色の柄だけ。
役人は頭が地面につくほどのけぞって大笑い。
「おまえバカだよね、おバカさんだよね」
「そんなに可笑しいか?」
男は首をかしげた。役人はまだ笑っている。
「まぁいいか。嬉丹」
うれたんと呼ばれた白猫が足元で鳴く。
「媚豆」
びいずと呼ばれた黒猫も応答する。
「元の姿に戻れ」
と言ったのに、2匹はじぃっと主人を見上げている。男はグシャグシャの頭をブンと振って。
「終わったらメザシな」
とたんに2匹はニャオンのハーモニーを奏でて蛍光灯のスイッチが入ったかのような光を発した。ろうそく以上の灯など存在しないはず。役人が声にならない悲鳴をあげたのはいうまでもない。しかも猫二匹が光の帯と化して細く長いマーブル状の竜巻となり、柄に絡みつき刃となったのだから。
「ば、化け物!」
闇雲に刀を振り回して飛びかかってきた。
「化け物なんて酷いなぁ」
焦点の定まらない刃などかすりもしない。男はひらりとよける。
「これは妖……魔……宝刀、その名も宝刀安眠枕だ」
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