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と説明してから妖刀とか魔剣とかいったら妖怪の類と認めてしまうと思ったが、猫たちが気づいていないようなので男は胸をなでおろした。
「なんなんだ、なんなんだよ」
役人は剣先を向けてガニ股になって震えている。
「案ずるな殺しはしない。安らかに眠ってもらうだけだ」
「おなじだろ!」
さっきから役人は瞬きをしていないのではなかろうか。煙がでそうな眼圧になっている。
「秘儀安眠三日月揺籠」
男は上から下へ剣を振った。闇夜を斬る音、はいっさいしない。そのかわり、銀色の刃から刃と同じ形の灯の像が現れる。果実に詳しい者ならでっかいバナナだと解説するかもしれない。しかしこれはバナナを模したものではない。地上の三日月なのだ。その三日月は万人の足元を照らすのだ。たとえ相手が辻斬りだとしても暖かく受け入れる。刀が放った三日月の灯は役人を抱擁するかのように真正面から覆い被さる。灯はぼんやりしているだけあって動きもスローモー。なのに役人は動くことができなかった。
「ねんねこよ おころりよ」
若い女の唄が聞こえる。
「だ、だれだっ!」
周囲は霧に覆われていた。
「なんだなんだ」
秘剣とやらを持った男の姿も見えない。
「ねんねこよ おころりよ」
「でてこい! 妖怪か、幽霊か、斬ってやるぞ」
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