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その日、鳥は目覚めました。
鳥は自分のすべきことを知っていました。
空へ飛び立つのです。
鳥にはそのための、大きくはありませんが強い翼がありました。
鳥は自分の巣の中で顔を上げ、体を起こし、白い翼を広げてみました。
ゆっくりと振りました。
初めて動かす翼ですが、どこにもひっかかったりきしんだりすることは、ありませんでした。
巣の入り口が開きました。
鳥は初めて見る巣の外を注意深く観察しました。
外は灰色でした。
灰色の空と灰色の地面です。
二つの灰色が交わり、世界は灰色だけでした。
鳥は白い翼を広げ、巣から体を乗り出しました。それだけでたちまち鳥は空に飛び上がりました。
灰色の地面の上を動くものはありません。ぽつんと鳥の黒い影だけが地面を移動しています。
外の空気はとても冷たく、まるで氷の中を飛んでいるようです。
灰色の地面の上に細い線があります。あれは昔の川の跡です。すっかり干上がり、ただの筋になっていました。
鳥はその上を飛びました。
するとその線の上にたちまち青い水が流れました。青い魚の影が泳ぎ、白い三角の帆を張った船が現れました。
川岸には子供たちがあげる水しぶきや、洗濯をする女の人たちの姿も見えました。
鳥は川をそれました。すると消しゴムをかけたように川の流れは消え去りました。
今のは川が思い出した昔の記憶です。
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